バランスシートを縮小する意味は?スリム化によって財務体質を改善
執筆者:川原裕也 更新:
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バランスシートのスリム化によって財務体質が改善し、経営効率を高めることができます。
経営を続けていると自然とバランスシート(貸借対照表)が拡大していくのが普通です。つまり、「総資産」の数字が大きくなっていきます。
そして、総資産の数値が大きくなると、バランスシートに無駄な「ぜい肉」が付き始めます。
こうした「ぜい肉」を一掃し、スリムな身体になるためにダイエットして健康な状態にすることが「バランスシートを縮小する」ことの意味です。
言い換えれば「無駄な資産を持たない経営をする」ということですね。
目次
バランスシートのスリム化とは
まず最初に、バランスシートのスリム化には様々な言い回しがあるので、まとめておきます。
- バランスシートのスリム化
- バランスシートの縮小
- バランスシートの圧縮
- バランスシートを軽くする
これらはすべて同じ意味です。
前述の通り、バランスシート(貸借対照表)の「総資産」の数値を小さくすることを意味します。
例えばニュースなどで、
FRBが早ければ年内にバランスシートの縮小に着手することが可能との見解を示した。
といった表現がなされます。
これは、FRBが量的金融緩和のために大量に買い入れていた債券やMBS(住宅ローン担保証券)を売却し、市場に放出するという意味です。
保有している資産を売却するということですね。
なぜバランスシートを縮小すると良いのか
むだなぜい肉を削ぎ落とし、スリムな身体になると、財務体質が改善し経営効率が高まります。
金融機関などの外部からの評価も高まりますし、内部の経営も行いやすくなります。
経営効率を測る指標に「ROA(総資産利益率)」があります。
ROAの数値が高ければ高いほど、資産を有効に活用している = 経営効率が良いと言うことができます。
計算式
ROA = 利益 ÷ 総資産
利益 = 経常利益や当期純利益(税引後)を使うケースなど様々ですが、個人的には税引き後の経常利益を使って計算する方法が良いと思います。
すでに数年間の経営実績がある会社なら、ROAの推移がどうなっているか、時系列で確認してみると実態が把握しやすいと思います。
ROAの数値を向上させる方法は大きく2つあります。
- 利益率を改善する
- 総資産を減らす
利益率を改善するには、仕入れやコストを見直す必要があります。
また、総資産を減らすには、無駄な資産を売って借金を減らす必要があります。
バランスシートはどうやってスリム化するの?
バランスシート(貸借対照表)は、シンプルにするとこのような形になっています。
左側に「資産」があり、右側に「負債」と「純資産」があります。
バランスシートの左側(資産)と右側(負債・純資産)の値は常に同じです。
資産 = 負債+純資産 = 総資産
資産
現金や設備など企業が保有しているもの。企業が利益を生み出すために必要な源泉となるもの。
負債
銀行借入や社債など、外部から借りているお金。
純資産
資本金や過去の利益の積み上げ総額など。
一旦、バランスシートの左側を無視して右側に注目してみます。
バランスシートを縮小するためには、負債を減らす必要があります。
なぜなら、純資産を減らすには「減資」などできることが限られていますし、純資産は財務体質の向上に貢献してくれるものなので、基本的に減らす必要はありません。
負債を減らすためには「借入金を返済する」のが主な方法となり、借入金を返済するためには、返済原資となる現金を生み出す必要があり、現金を生み出すには資産を売る必要がある(または利益をより多く出す)ことがわかります。
「資産を売って、現金を生み出して、そのお金を借入金の返済に充てて負債を減らす」
これが、バランスシートを縮小し財務体質を強化する方法です。
「負債が減ればおのずと資産も減るし、資産が減ればおのずと負債も減る」ということです。
バランスシートを縮小する具体的な方法
バランスシート圧縮のための具体的な方法を紹介します。
無駄な資産を減らすことが最も重要な方法ですが、それ以外にも「オフバランス化」というテクニックを使うことで、バランスシートを軽くすることができます。
設備をリース取引にする
保有している資産・設備をリースに切り替える方法は、「オフバランス(資産をバランスシートから除外するテクニック)」の方法として最も一般的でした。
つまり、自社で保有するのではなくレンタルに切り替えれば、「資産」として貸借対照表に計上せずに「経費」として処理できます。
しかし、現在は国際会計基準(IFRS)に合わせ、リース取引も資産計上する必要性があるとのこと。
この点は私自身あまり詳しい分野ではないのですが、中小企業のリース契約1件あたり300万円以下であれば、これまでと同様にオフバランス化ができるようです。(詳しくはリース会社にご相談ください)
自社ビルを賃貸に切り替える
もし自社ビルを保有している中小企業であれば、自社ビルを売却し賃貸契約にすることで「オフバランス化」できます。
これまでバランスシートに計上していた「土地建物(自社ビル資産)」を売却することで、バランスシートからは完全に消すことができます。
自社ビルはお金を生まない資産なので、必ずしも保有しなければならないことはありません。
自社ビルの売却資金で借入金を返済すれば、支払利息が圧縮できるため、財務体質が改善しバランスシート上の経営効率(ROA)も向上します。
アウトソーシングする
最近注目を集めている「ファブレス企業」をご存知でしょうか?
ファブレス企業というのは、自社で工場を持たずに、生産を外部にアウトソーシングしている会社です。
例えば、キーエンスやアップルといった企業は、自社で工場や生産設備を保有していません。
アップルはiPhoneの開発(経営戦略や設計などの知的な部分)のみを自社で行い、実際のiPhoneの製造は台湾のホンハイ(鴻海精密工業)という会社に委託しています。
また、ダイエーとセブンイレブンもよく比較される企業です。
ダイエーは店舗・土地を自社保有する、バランスシート拡大型の経営戦略を採用しており、バブル崩壊とともに失敗しました。
一方で、セブンイレブンは「フランチャイズ方式」を採用しているため、自社でセブンイレブンの店舗を抱えているわけではありません。
経営戦略やノウハウを自社で保有し、それらを外部のフランチャイジー(加盟者・加盟店)に販売することで、バランスシートのスリムな経営を実現しているのです。
ファブレスについては、「持たない経営」が今注目される理由、バランスシートを見なおしてみようという記事で詳しく解説しています。
売掛債権のファクタリング
売掛債権(売掛金)は回収までに時間を要する資産です。
近い将来現金になる資産ですが、回収が3ヶ月後や6ヶ月後という先の話になると、それまでは「お金を生まない無駄な資産」として計上しなくてはなりません。
売掛債権のファクタリングとは、売掛金を業者に買い取ってもらうことで、3ヶ月・6ヶ月という回収期間を待たずに即日現金化することです。
つまり、「売掛金の売却による資産圧縮」のことです。
しかし、売掛債権のファクタリングには一定の手数料がかかります。例えば、100万円の売掛金があったとしても買取価格は95万円などと割り引かれます。(この部分がファクタリング業者の手数料)
個人的にはあまり良い方法ではないと思っていますが、財務体質を改善する方法として知っておいて損はありません。
ファクタリングに関する情報は「売掛金の現金化、ファクタリングとは?資金繰りを改善する3つの方法」という記事で解説しています。
もちろん、ファクタリングをしなくても取引先に頼んで回収サイクルを早められるような条件に契約を変更すれば、売掛金の滞留を少なくすることは可能です。
適切な在庫管理
資産に計上される「在庫」を圧縮し、適切な在庫管理をすることでも、バランスシートはスリム化できます。
無駄な在庫は極力持たず、可能な限り受注生産に近い形に切り替えます。
的確な販売予測によって在庫管理を最適化することで、会社が抱える在庫は少なくなり、在庫の鮮度が上がり、また財務体質も改善します。
クラウドサービスを導入する
ソフトウェア資産などのIT設備は、クラウドサービスに切り替えることでオフバランス化できます。
例えば、自社でサーバーを保有したり業務システムを構築しなくても、クラウドサービスを活用することで月額課金で最新のソフトウェアを利用することができます。
今日の経営では、業務効率化につながるクラウドサービスを数多く紹介しています。
遊休資産を売却する
そしてもちろん、最も重要な「無駄な資産を売却する」ことも、バランスシートを縮小する有効な手段です。
貸借対照表の「資産の部」に計上している保有資産が「効率的に利益を生み出していると言えるのか?」を問い、利益を生んでいない資産は売却し、より効率よく利益を生む資産の購入に充てるようにします。
これが理想的な経営です。
持たない経営へシフトする
バランスシートを定期的に見直して圧縮する方法について説明してきました。
定期的に無駄な資産を減らすことも重要ですが、最も大切なのは、最初から無駄な資産を持たないことです。
つまり、取引をする前に「バランスシートに計上しない手段はないか?」を考えるのです。
例えば、営業車が3台必要になったとき、
- 営業車をレンタルしている会社はないか
- 営業部門を外部に委託しアウトソーシングできないか
といったことを考えるのです。
極端に言えば、「自家用車を保有している人を、やや高めの時給でアルバイトとして雇い、自家用車で営業に周ってもらう」といったことをするだけで、営業車3台分の費用負担を減らせます。
そして、この方法であれば営業車10台分でも100台分でも、台数に関係なく会社側の負担はわずかで済みます。もしこれだけの営業車を自社で保有した場合、維持費が経営を圧迫する原因になるのは間違いありません。
最近は、Uber Eats(ウーバーイーツ) で配達パートナーの仕事をしている人を街で見かけます。
これも仕組みとしては同じで、配達に使う自転車やバイクをUberは保有せず、配達パートナーが自分で用意したり、第三者からレンタルする構造になっています。
つまり、Uber Eatsの運営会社が自ら配達をするのではなく、配達業務を外部に委託することでアウトソーシングしているのです。
バランスシートが最適化されるということは、「無駄な借入金がなくなる」ことを意味します。
借入金が最小限になれば支払利息が減り、資金繰りの改善や最終利益率の向上に貢献してくれます。
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