預金担保に意味はない、銀行から提供を求められたら応じるべきか
執筆者:川原裕也 更新:
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本日は、預金担保について議論してみようと思います。
まず結論を言うと、私の意見としては「預金担保は経営者にとって無意味なので、決して応じるべきではない」と考えます。
中小企業や個人事業主が、地銀や信用金庫から資金調達をする際、担保の提供を求められることが少なくありません。
大抵は不動産担保が中心ですが、「預金担保(現金そのものを担保にする)」を行うことで、資金を提供する。と持ちかけられることもあります。
私たち経営者はよく考え、銀行の提案に応じるべきか慎重に決断しなければなりません。
預金担保とは
預金担保(よきんたんぽ)とは、定期預金を担保とした貸付のことです。
例えば、融資を受ける予定の銀行に2,000万円の定期預金を作る。
その定期預金を担保として2,000万円の借入を起こす。(場合によっては定期預金の8割か9割程度の借入になることも)
定期預金は「担保」として提供するものなので、当然、借入期間中は解約できません。が、通常の定期預金と同様に、預金中は受取利息が発生します。
その一方で、預金担保を元にして借りたお金には金利(利息)がかかります。
当然ですが、定期預金の預金金利よりも、借入金利の方が高いです。
また、借りたお金を返済できなくなった場合、定期預金に預けている資金(担保)は金融機関に没収されてしまいます。
これが、預金担保の仕組みです。
銀行はノーリスクで儲かる
上記の取引を見て、「何かおかしい」と気づきましたか?
実は、預金担保とは「銀行がノーリスクで儲かる取引」なのです。
倒産寸前の中小企業に2,000万円を融資しても、それと同額の2,000万円を「現金」として担保で取っているわけですから、もし融資したお金が返ってこなくても、銀行にとっては1円の損もありません。
もし、貸したお金が返ってこないのであれば、確保している(融資額と同額の)定期預金を取り上げてしまえばよいのです。
さらに、融資期間中、銀行は企業から利息を受け取れます。
つまり、1億融資しても10億融資しても、それと同額の現金担保をとっておけば、銀行には何一つリスクはないのです。
預金担保を提案されるということは、「私たち銀行は、あなたの会社を一切信用していません」という、銀行からの回答と考えてもおかしくありません。
「銀行がノーリスクで儲かる取引」ということは、裏を返すと、私たち経営者にとっては「100%不利な取引であり、受け入れるメリットは何一つない」のです。
これが、預金担保の考え方に対する私の結論です。
預金担保のメリット
一方、ネットの情報サイトを見ていると「預金担保のメリット」について言及している人もいます。
その内容と、私の意見(反論)をまとめたいと思います。
契約者以外が担保を提供できる
預金担保の1つめのメリットは、「契約者以外の人が担保を提供できる」ことです。
これは不動産担保などでも同じですが、担保というのは必ず契約者が提供しなければならないことはありません。
例えば、経営者やその企業自身に提供できる担保がなくても、経営者の奥様や親族が不動産・預金といった、担保になるものを持っていれば、奥様名義・親族名義の不動産・預金を担保として提供することが可能です。
これは、使いようによっては預金担保のメリットになるかもしれません。
しかし、他人が担保を提供してくれるということは、最悪の場合、その担保が金融機関に取られてしまっても仕方がないと、同意しているということです。
であれば、他人名義の預金担保を金融機関に提供せずとも、その人から直接借りればよいのです。
不動産担保のように、「現金ではないもの」や、場合によっては評価額以上の融資が受けられる場合は、他人名義の担保を提供するメリットもあります。
しかし、預金担保に限っては、それが既に現金として使えること、そして「担保として提供する預金額を上回る銀行融資は引き出せない」ことから、提供メリットはありません。
貸借対照表を大きく見せることができる
保有している預金を担保に、それと同額の借入を起こすことで、貸借対照表(バランスシート)は拡大します。つまり、総資産が大きくなります。
貸借対照表が大きくなったからといって特にメリットはありませんが、何らかの理由で資産を大きく見せたい場合には、預金担保の活用メリットになります。
この方法を使っても、見かけ上の貸借対照表が大きくなるだけで、本質は何も変わりません。
貸借対照表に計上されている「預金」は担保であり、自由に換金できません。
自由に使えないということは、その預金は預金のままでしか存在できず、何かの支払いに充てることも、利益を生む資産に投資をすることもできないのです。
貸借対照表上で多額の現金を持っているように見えても、実態は、自由に換金できない資産を「預金」として貸借対照表に計上しているという、おかしな状況になってしまいます。
結果的に、こうした貸借対照表は経営効率の低いものとなってしまうのです。
担保の定期預金から利息が得られる
例えば、2,000万円を定期預金に入れると、その定期預金からは利息収入が生まれます。
上記を担保に、年率1%で借入を起こし、その資金を使って年率5%の事業に投資をした場合、事業からは差し引き4%のリターンが得られます。
この場合、合計すると「定期預金の利息+年率4%の事業リターンが得られる」ので、状況によっては預金担保にメリットがある。と言う人もいます。
しかし、この論理は間違いであると私は考えます。
この論理は一見すると正当性があるように思えます。
しかし、上記の状況では、そもそも借入をせずに自己資金で事業に投資した方がリターンは高くなります。
2,000万円の定期預金を解約し、そのお金でもって年率5%の事業に投資をするのです。
すると、定期預金から利息収入は得られませんが、年率1%の借入利息も支払わなくて良いので、結果的に「年率5%のリターン」がそのまま得られます。
ただし、下記のような状況は例外的に、預金担保を利用するメリットがあります。
それは「定期預金を中途解約することで、定期預金から得られる利息にペナルティがかかり、預金担保でお金を借りた場合に支払う利息以上の損失が出る場合。」です。(このようなシチュエーションはほとんど稀でしょう)
つまり、定期預金の満期で得られる利息収入が、預金担保の支払利息を上回る場合を除き、この考えに合理性はありません。
銀行との信頼関係を築ける
預金担保によって融資を受けることは、経営者にとって不利な取引でしかありません。
繰り返しますが、銀行にとってはノーリスクで儲かる取引であり、経営者にとっては100%損する取引です。
しかし、それをわかった上で「将来の銀行との信頼関係を築くため」と割り切るのであれば、預金担保で融資を受けることはメリットになるのかもしれません。
これはつまり、「利息という手数料を払うことで、銀行との信頼関係を築く」という意味です。
ただ、私の意見としては「そんなことをして本当に銀行との信頼関係を築けるのかは疑問」です。
預金担保のような取引で、手数料を落としておけば、いざという時になって、本当に銀行が助けてくれるのでしょうか。
そのような面倒なことをするなら、自社の事業のアピールをしっかりとしたり、業績を向上させることに時間をそそいだ方が、健全だと私は考えます。
「預金担保によって銀行との信頼関係を築くメリット」は、数字では説明のつかない部分ですので、経営者の考え方によって、意見が分かれるところかと思います。
預金担保について、皆様の意見をお聞かせください。(コメント欄より投稿できます)
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2件のコメント
保証協会が保証する当座貸越には銀行との与信取引が6カ月以上必要である場合があります。その場合、預金担保貸付で実績作りをすることができます。
>No Nameさん
そうした活用方法があるのですね。
参考になるご意見をいただき、誠にありがとうございます。