クラウド会計に危険性はあるの?経理ソフトのセキュリティで知っておくこと
執筆者:川原裕也 更新:
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個人事業主・法人を問わず、経理ソフトは必須のツールとなっています。
事業を立ち上げてまず最初に行うのが、銀行口座開設、ビジネス用クレジットカードの発行、そして経理ソフトの導入です。
これまで、経理ソフトには数多くの種類がありましたが、最近の流れとして「クラウド会計」が主流になりつつあります。
業界大手の「弥生会計」も現在は「やよいの青色申告オンライン」「弥生会計オンライン」などをリリースしており、経理ソフトのシステムを「クラウド会計」へとシフトしつつあります。
最近はさまざまなビジネス分野で「クラウド」が取り入れられています。しかし、会社の大切な帳簿や業績データを管理する経理ソフトを「クラウド会計」に移行することに対して、リスクを感じる経営者も少なくありません。
そこで今回は、クラウド会計ソフトの危険性やセキュリティに関する内容をまとめたいと思います。
ちなみに、私自身は小規模法人を経営していますが、会社の経理・会計は「クラウド会計」で行っています。
また、「特集:自営業として生きる」で多くの個人事業主の方にインタビューをさせていただいていますが、多くの人がクラウド会計を使っており、非常に便利だと答えている事実もあります。
リスクがあるとは言え、やはり時代の流れはクラウドへと移り変わりつつあります。
目次
クラウド会計とは?
従来の会計ソフトには以下のような問題点がありました(こうした点が使いにくかったと思っている人も多いと思います)。
①ソフトをインストールする必要がある
経理ソフトを購入すると、まず最初にソフトをパソコンにインストールする必要がありました。
インストールに慣れている人でも、パソコンを買い換えるたびに再インストールしなければならない面倒くささがありました。
②Windows用・Mac用が分かれていた
これまでの会計ソフトはWindows用・Mac用が分かれているのが普通でした。
特に最近は、オフィスではWindows、モバイル用にMacbookを使っているという人も多いです。
また、複数台のパソコンに会計ソフトをインストールして使うことに制限があったり、モバイルワークの時代に、スマホ・タブレットで使えないという点も問題でした。
③PCのクラッシュでデータが消えてしまうことも
私自身、これまでは従来型の経理ソフトを使っていましたが、パソコンがクラッシュしてデータが消えてしまったことが何度かありました。
帳簿の仕訳入力を最初からやり直した経験もあります。
最近はクラウド上にバックアップ機能を提供している経理ソフトも登場しましたが、手動でバックアップを取るのはやはり面倒です。
④税制の変化に対応できない
消費税の増税が発表されたり、税制が変わると、手動で設定を変更しなければなりません。
経理ソフトの専門的な知識がなければ設定変更は難しく、かと言って最新バージョンを都度買いなおすとコストがかかります。
こうした問題点は、クラウド会計であればすべて解決できます。
クラウド会計ソフトは、いわゆる「Webサービス」なのでパソコンのブラウザからID・パスワードを使ってログインして使います。
つまり、ソフトをインストールする必要がないので、パソコンを買い替えてもデータの移行などが不要です。
また、Windows・Macも問いませんし、スマホやタブレットからでも利用できるのが特徴です。インストール型の会計ソフトに対するデメリットは、「インターネット接続環境が必要」であることです。
クラウド会計ソフトで記録したデータは自社のパソコンには一切保存せず、すべてクラウド会計ソフト運営事業者のデータセンターで管理されます。
データセンターでは、保管したデータを高いセキュリティで守り、何重ものバックアップ体制を構築しているため、データ消失を心配する必要はありません。もちろん、自社のパソコンのデータが消えても、会計ソフトのデータは無傷です。
また、自動的に最新バージョンにアップデートされるため、定期的に機能追加が行われたり、最新の税制にもいち早く対応します。
この際、追加費用などは一切かからず年額(または月額)利用料を支払うだけで、常に最新の会計ソフトを使い続けることができます。
データの自動取り込み機能が人気
クラウド会計ソフトは、従来型の経理ソフトの問題点を解決するだけでなく、さらに独自の機能を提供しています。
その代表が、データの自動取り込み機能です。
「銀行口座の取引明細」や「クレジットカードの利用明細」、「請求書発行サービスで発行した請求書の売上」などを自動的に取り込んで仕訳し、帳簿に反映してくれます。
この自動取り込み機能には人工知能(AI)が使われており、使えば使うほど正確性が向上するという仕組み。
これまで手動入力していた、銀行取引やクレジットカードの支払い状況などは、件数がどれだけ多くても5分もあればすべて入力が完了します。
クラウド会計の自動取り込み機能によって、経理の仕事は大幅なコストダウンと業務効率化が実現可能です。空いた時間は別の業務に充てることができるので、間接的に売上アップにも貢献するというわけです。
メリットだけを見ると、クラウド会計は従来型の経理ソフトを圧倒的に上回る利便性を提供してくれます。
クラウド会計の危険性をまとめます
ただし、クラウド会計にはいくつかの危険性があります。よいことばかりではありません。
ここからは、クラウド会計が持つリスクについてまとめます。
データが消えてしまうのではないか
クラウド会計を使うにあたって「クラウド上に保存したデータが消えてしまうのではないか?本当にデータを預けて大丈夫なのか?」と不安に思う経営者も多いと思います。
この問題に対する回答としては「100%安全とは言えないが極めて安全」となります。
クラウド上のデータの安全性について、私はよく「現金を銀行に預けるのと金庫に保管するのとどちらが安全か?」というたとえを出します。
銀行に預けたお金は100%安全とは言えません。しかし、極めて安全であり、少なくとも会社の金庫で保管するよりも安全だと思うからこそ、私たちは現金を銀行に預けます。
データをクラウド上に預けるというのはこれと同じです。
たとえば、クラウド会計ソフト大手の「マネーフォワードクラウド会計」では、毎日自動的にバックアップを行っています。
いざというときはバックアップデータを復旧させることで、失ったデータを取り戻すことができます。
さらに、データは遠隔地保管を含め3重に保管しています。
つまり、会計データを保存しているデータセンターが、火災や地震の被害に見舞われてしまっても、遠隔地でバックアップデータが安全に保管されているので安心です。
自社でここまで強力なバックアップを取ることは難しいです。事務所が火災に見舞われれば過去の決算書も含めてすべて燃えてしまいます。
データの消失リスクについては、少なくとも社内で保管するよりも安全であることは間違いないと思います。
どうしてもデータ消失リスクが気になる場合は、手動でバックアップを取り、自社のPCにクラウド会計の帳簿データを保存することも可能です。
会計データが漏洩してしまうのではないか
これも上記の回答と同じく、「100%安全とは言えないが極めて安全」という答えになります。
データセンターに預けた会計データが絶対に漏洩しないとは言い切れませんが、少なくとも自社で管理するよりは安全です。
もし、会社に空き巣が入りパソコンと一緒に会計データが盗まれてしまったらどうでしょう。また、社員が不正に会計データをUSBなどに保存し外部に流出させてしまうことも考えられます。
この点、データセンターに空き巣が入る可能性はありませんし、従業員のアカウントには「権限」を設定できるので、「会計データの入力はできるが、データの出力はできない」などの制限を加えることができます。
つまり、データを外部に持ち出せる従業員を限定できるので、人的被害も防ぐことが可能です。
一方で、データセンターがハッキングの被害にあい、会計データが流出してしまう可能性は考えられます。
いずれのクラウド会計ソフトも、通信はすべて暗号化し、金融機関と同等のセキュリティでデータを管理しています。また、データセンター自体が高いセキュリティで守られているため、データ流出の可能性は低いです。
最悪の場合、会計データが流出してしまっても、私の意見としては「自社にとっての影響は軽微」だと考えています。
上場企業であるならともかく、個人事業主や中小企業レベルの会計データが、データセンターの攻撃によって外部に流出しても、業績を揺るがすような被害には繋がりません。
経営者は「流出・漏洩」という言葉に臆病になりがちですが、冷静に考えると、「帳簿データは絶対に守らなければならない情報というものではない」ことに気づきます。
連携した取引明細が流出してしまうのではないか
クラウド会計には「自動取り込み機能」というたいへん優れた仕組みがあります。
ネットバンキングを通じて、銀行口座の取引明細を取り込んだり、クレジットカードのWeb明細を取り込んで自動的に仕訳をしてくれます。
しかし、この機能を使うにはクラウド会計ソフトと銀行口座などを連携させなければなりません。
ここで気になる危険性が「クラウド会計のデータ流出時に、ネットバンキングのパスワードやクレジットカード番号が流出するのではないか?」という懸念です。
しかし、この点についても極めて安全な設計が行われているので安心です。
まず、ネットバンキングの多くは現在「振込などの入出金を伴う取引にはワンタイムパスワードが必須」となっています。
もし、クラウド会計がネットバンキングのパスワードを流出してしまった場合、私たち顧客にはすぐに通知が入ると思います。
このような被害が起こる可能性は極めて低いですが、もしこのような自体が起こっても、銀行のネットバンキングの「ワンタイムパスワード」が流出することはないので、不正送金被害に発展することはありません。
すぐにネットバンキングのパスワードを変更することで対処できます。
一方、クレジットカードの明細取り込みについてですが、こちらはクレジットカード番号は登録しないので安全です。
クラウド会計ソフトに登録するのは、クレジットカードのWeb明細を閲覧するためのID・パスワードのみです。
万が一情報が流出しても、閲覧されるのはWeb明細の内容のみであり、クレジットカード番号が漏れる心配はありません。こちらもすぐにWeb明細閲覧サービスのパスワードを変更することで対処できます。
月額利用料が上がる可能性
クラウド会計ソフトのデメリットとして、利用期間中は定額の料金が発生することがあげられます。
年額(または月額)での契約となり、利用料は個人事業主で年間1万円以下、法人の場合は年間3万円程度が相場です。
経理部門の業務効率化を考えると定額費用がかかってもクラウド会計の方がお得だと思いますが、私が懸念しているのは「将来的に料金が値上げされるのではないか?」という心配です。
というのも、過去にマネーフォワードクラウド会計が利用料金の値上げを発表したことがあるからです。
少なくとも、個人事業主や中小企業の経営を圧迫するほど値上げされる心配はないと思いますが、現在の格安料金が将来も保証されるものではないということは頭に入れておくべきです。
しかし、クラウド会計は「データファイルを他社ソフトに移管する」のが簡単なので、実は乗り換えはすぐにできます。
携帯会社を乗り換えるのと同じような感覚で、月額利用料が値上げされれば他社のクラウド会計に移行すれば、この問題はすぐに解決することが可能です。
さいごに
事業がうまくいかなくなる最大の理由は「変化対応の遅れ」であると言います。
事業の経営者が皆、「今の事業を永続的に続けていきたい」と考えているはずです。
しかし、現在どれだけうまくいっている企業でも、この先大きな問題は何度もやってきます。
たとえば、以前アイドルユニットのSMAPがその活動に幕を下ろしました。調べてみると、SMAPは結成から28年で解散したことがわかりました。
あれだけの繁栄を続けたSMAPですら28年しか続けることができなかったのです。
現在どれだけ事業が上手く行っていようと、どれだけ大きな会社であろうと、次々とやってくる変化・問題に対応できなければ事業は永続できません。
自ら変化していかなければ、永続的な繁栄はありえないのです。
たとえセキュリティリスクがゼロとは言い切れなくても、時代の潮流が「クラウド化」している以上、その変化を拒むという選択肢はいずれなくなります。
クラウド会計への移行は私自身、大きな業務効率化・コスト削減につながる施策だと考えています。
最初は一部の部門から少しずつ導入していくなど、リスクを限定して使うのも良いと思いますので、クラウド会計システムへの移行で、経理部門にも変化対応に遅れない投資を行ってください。
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