賃貸マンションで事務所利用や法人登記はできるのか?テレワーカーはどう対応すべき
執筆者:川原裕也 更新:
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個人事業主や小規模法人の経営者は、自宅を「自宅兼事務所」にしているケースも多いです。
しかし中には、持ち家ではなく賃貸マンションなどに住んでいる事業者もいると思います。
賃貸マンションを
- 事務所として使う
- 法人の場合は法人登記する
ことはできるのか。
私自身、この点についてさまざまな経験がありますので、知識を共有したいと思います。
目次
原則としてできないが実態は
まず、賃貸マンションを事務所として利用することについて。
結論から言うと「原則として事務所利用はできないが、実態はみんな内緒で利用している」という状況だそうです。(不動産屋さんの話)
賃貸マンションを事務所として使っていいかどうかの判断ポイントは、下記の3つです。
- 大家さんがOKを出すか
- マンションの管理規約ではOKか
- 賃貸契約書の使用目的が事務所利用になっているか
まずは大前提として、貸主である大家さんが事務所利用を許可してくれるかどうか。
もともと事務所利用OKのマンションであれば、問題ないケースが多いです。しかし大抵の場合、大家さんは事務所利用OKとは言ってくれません。
なぜなら、2つめの項目にある「マンションの管理規約」で事務所利用がNGとなっているケースが多いからです。
集合住宅であるマンションには、多くの人が住んでいます。
マンションの一室を事務所として使うことで、不特定多数の人が出入りしたり、仕入物品などが頻繁に搬入されるというのは、一般の居住者にとって迷惑です。
築年数が古いマンションでは、事務所利用OKとなっていることもありますが、築浅のマンションでは大抵、住居目的以外の利用は禁止されています。
ネットの仕事なら問題ないことも
厳密には事務所利用はNGでも、実際のところ自宅でパソコンを使って1人で仕事をする程度の個人事業主(SOHO)なら、近所の人たちに迷惑をかけることはまずありません。
また、自宅を事務所として使っていて、そこで作業しているかどうか、外部から知られることもないでしょう。(郵便ポストに事業者名や会社名を掲げるなら話は別ですが)
ですので、前述したとおり実態は「原則として事務所利用はできないが、実態はみんな内緒で利用している」という状況です。
ひとことで事務所利用と言っても、その使い方によって大家さんの印象は大きく変わります。
私が賃貸マンションの大家さんだとしたら、不特定多数の人が土足で出入りするような使い方なら絶対NGですが、逆にパソコンで執筆や編集、WEB制作などをするような業務であれば黙認します。
とはいえ、マンションの管理規約等で禁止されていたり、大家さんの許可をとっていない場合、トラブルになったときに、退去や損害賠償を求められる可能性は考えられます。
仮に大家さんに通知せず、自宅で仕事をするとしても、
- 郵便ポストに社名や事業者名を掲げない
- 住所をネット上に表示しない
- ご近所など周りに迷惑をかけない
- 法人登記をしない
といったことは徹底しておいた方が安全です。
そして何よりも、もしトラブルが生じた場合は自己責任でそのリスクを負うという心構えが必要です。
賃貸契約書の使用目的は事務所になっているか?
もうひとつ、賃貸マンションを事務所として利用する上で重要なポイントがあります。
それは、賃貸契約書の「使用目的(用途)」の項目が「住居」か「事務所」かという点です。
これは簡単に言うと
- マンションを住居として利用するために借りているか
- マンションを事務所として利用するために借りているか
という契約書上の定義です。
これがなぜ重要なのかというと、家賃に消費税を含むかどうか?がこの部分で判断されていることが多いからです。
言い換えると、使用目的が「住居」だと、消費税の納税額が少し多くなります。
家賃に消費税が含まれているか
通常、居住目的の賃貸マンションでは、家賃に消費税は含まれていません。
住居は生活必需品であるというのが理由だそうで、消費税が5%から8%に上がろうが、8%から10%に上がろうが、家賃が変わることはありません。(大家さんから賃料改定を求められる可能性はありますが)
一方、事務所利用を目的とした賃貸マンション(または賃貸オフィス)では、賃料に消費税が含まれていることが多いです。
つまり消費税が増税されれば、それに合わせて賃料も上がります。
マンションの利用目的が「住居」か「事務所」かでこうした違いがあるわけですが、これがなぜ消費税の納税額に影響を及ぼすのか。
個人事業主や法人が支払う「消費税」には以下のような仕組みがあります。
消費税の仕組みを1分で理解する
消費税には「課税仕入取引」という仕組みがあります。
消費税が10%だからと言って、税抜き売上高1,000万円に対して、(10%に相当する)100万円の消費税をおさめなければならないわけではありません。
消費税の厳密な計算方法は複雑ですが、非常にシンプルに説明すると以下のようになります。
- A社:原材料を作る会社
- B社:A社から原材料を仕入れて商品を作る会社
- C社:B社から商品を仕入れて消費者に商品を売る会社
上記のような3つの会社がある場合。
A社はB社に原材料を50円で販売する。(売上高の50円に対して消費税がかかる)
B社はA社から原材料を50円で仕入れて、商品を作ってC社に80円で販売する。(売上高は80円だが、仕入額の50円を差し引き、差額の30円に対して消費税がかかる)
C社はB社から商品を80円で仕入れて、消費者に100円で販売する。(売上高は100円だが、仕入額の80円を差し引き、差額の20円に対して消費税がかかる)
という流れになります。
特に影響が大きいのはC社の場合です。売上高は100円ですが、収める消費税は(売上高の10%に相当する)10円ではなく、仕入高を引いた20円に対する10%。つまりたった2円です。
単純に売上高に対して消費税がかかるのではなく、消費税の課税対象となるのは「売上高から仕入高を引いた金額」です。(厳密には計算はもっと複雑ですが)
住居目的は課税仕入取引の対象外
- 賃貸契約の使用目的が「住居」の場合、原則として家賃に消費税は含まれないこと
- 消費税には課税仕入取引の仕組みがあること
上記2点から、賃貸契約の使用目的が「事務所」となっている場合は、課税仕入取引によって支払う消費税が、実際の売上高よりもやや安くなるのに対し、「住居」目的となっている場合は、課税仕入取引の対象にならないため、事務所利用として賃貸契約をするよりも、収める消費税額はやや高くなります。
この点は税務調査でもよく指摘されやすいポイントです。(というよりも、私が実際に指摘された経験があります)
もちろん、賃貸契約の使用目的が「住居」であったとしても、家賃を経費で落とせないわけではありません。
また、課税仕入取引の対象外になっても良いと考えるのであれば、「住居」目的で賃貸契約を結ぶことは何ら問題はありません。
現実問題として「賃貸オフィス」は敷金が高かったり、賃料もやや割高であることが多いです。
課税仕入取引の対象外になって、消費税を少し多めに払うことになったとしても、「賃貸マンション」を事務所として使う方が、トータルで見て割安になることが多いように感じます。
法人登記や住所利用にはバーチャルオフィスを使う
繰り返しますが、賃貸マンションは「原則として事務所利用はできないが、実態はみんな内緒で利用している」という状況です。
だからといって、ルールとして認められていない状況で、
- ネット上に住所を表示する
- 法人登記をする
といったことをしてしまうのは、リスクが高いです。(後々、トラブルになる可能性があります)
また、個人事業主の方にとっては、仮に大家さんに許可をとって事務所利用していたとしても、プライバシーの問題で住所はネット上に表示したくないという方も多いと思います。
こうしたときにおすすめなのが「バーチャルオフィス」の存在です。
バーチャルオフィスとは、いわば「住所貸し」サービスのことです。
大抵、そのエリアの一等地の住所を利用できるので、名刺などに一等地の住所を記載することができ、対外的な信用力向上にも貢献します。
バーチャルオフィスを使う場合、
- 実際に作業をする事務所は賃貸マンション
- 対外的に表示する住所はバーチャルオフィスの一等地の住所
という使い方ができ、自宅の住所を知られることなく、外部に住所を表示することができます。
バーチャルオフィスに届いた郵便物等は、自分自身で取りに行くこともできますし、届いた郵便物をまとめて転送してくれるサービスもあります。
特に法人の場合、事務所(オフィス)を移転するたびに、登記簿謄本の変更登記が必要となり、そのたびに手数料がかかります。
登記先住所をバーチャルオフィスにしておくことで、事務所の移転を繰り返しても変更登記の必要がなくなるというメリットもあります。
バーチャルオフィスの利用料金は月額数千円~1万円程度です。
若干のコストがかかりますが、自宅の住所を晒したくない場合には利用メリットの大きいサービスです。
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