個人事業主で家事按分できるもの、仕訳の方法と適切な割合の決定方法
執筆者:川原裕也 更新:
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個人事業主の場合、日常生活のお金と事業で使う必要経費が交じることがあります。
たとえば、自宅兼事務所として活動している自営業の場合、「家の家賃や水道光熱費」などは事業で使っているとも言えますし、普段の生活で使っているとも言えます。
また、プライベート用と事業用の車をそれぞれ所有することは難しいですから、あるときはプライベート利用で、あるときは仕事で、1台の車を使い回している方も多いと思います。
このような場合は「家事按分(かじあんぶん)」することで、支払額のうち一定割合を経費として計上することが認められています。
目次
按分できるものとできないもの
具体的にどのような費用が按分によって経費計上できるのか、下記にまとめます。
家賃
按分できる経費としてもっとも代表的なもののひとつが「家賃」です。
経費の勘定科目は「地代家賃」となります。
家賃はおもに「面積(㎡)」で、事業用にどれくらいのスペースを使っているかで按分します。
たとえば、30㎡(平方メートル)の賃貸マンションに住んでいる場合を考えてみます。
このうち、パソコンやプリンタなどを置いている事業用のスペースが9㎡程度なら、「9㎡ ÷ 30㎡ * 100 = 30%」という計算になります。
つまり、家全体の30%を事業用のスペースに使っているので、家賃も全体の30%を経費にしてもよいという考え方です。
家賃が9万円なら、その30%に相当する3万円を「地代家賃」という経費に計上できます。
持ち家の場合は経費が異なる
賃貸ではなく、持ち家の場合も家事按分によって一定割合を経費計上できます。
ただし、勘定科目は「地代家賃」ではなく、また経費計上できるものが異なってくるので注意してください。
持ち家の人が按分によって経費にできるものとしては、
- 建物の減価償却費(減価償却費)
- 固定資産税(租税公課)
- 住宅ローンの金利(支払利息)
- 火災保険料(保険料)
※カッコ内は勘定科目名
があります。
いずれも、どれくらいのスペースを事業用に使っているか?を基準として割合を計算し、経費計上します。
気をつけるポイントとしては「住宅ローンの元金は経費にできない」ことです。
建物の減価償却費や住宅ローンの金利部分については経費に計上できますが、ローンの返済元金は経費にはなりません。
水道光熱費
水道代や電気代、ガス代も家事按分の対象です。勘定科目はいずれも「水道光熱費」です。
水道光熱費は按分の計算方法が難しいのですが、税務調査のときに調査官に納得してもらえる範囲であれば問題ありません。
計算方法として一般的に言われているのは「使用時間」、「使用日数」などです。
使った分の割合だけを計算するのですが、保守的に見積もっておけばそれほど指摘されることもないと思います。
Web系の仕事をしているフリーランスの方は、水道代やガス代の経費計上は少なめにとどめておくことをおすすめします(事業で積極的に使っているとは言いにくいため)。
一方で、電気代に関しては比較的多めの比率で経費計上しても問題ありません。
なぜなら、パソコンは結構電気代を食いますし、自宅でずっと作業をしている方なら、夏・冬のエアコン代も一般家庭よりも高額になるからです。
また、店舗経営(たとえば自宅の1階部分で飲食店を経営しているなど)をしている個人事業主であれば、水道光熱費の大半が経費に計上されると思います。
通信料
携帯電話の通信料金や、インターネットの使用料などは、「通信費」という勘定科目で経費に計上します。
通信料も水道光熱費と同様に、「使用時間」、「使用日数」などを用いて事業用の割合を算出します。
事業をやっていればビジネスでの電話は増えるでしょうし、最近はインターネットを事業に使っている人も多いでしょうから、通信費の割合は全体的に高くなると思われます。
また、月曜日から金曜日までの平日はネットを使っており、土日は仕事を休んでいるから使っていないという場合は「使用日数」で計算するのがおすすめです。
「5日 ÷ 7日 * 100 = 71%」と全体の7割以上を経費にすることができます。
ガソリン代
仕事で自動車を使っている個人事業主の場合、ガソリン代やその他の自動車関連費用を経費にできます。
ガソリン代の勘定科目は「車両費」とするのが一般的です。
按分の計算方法ですが、自動車関連費用は「使用日数」や「走行距離」から算出することが多いです。
一番良い方法は、営業車として仕事で車に乗った場合、その日の走行距離をメモっておき、月末に合計して按分するというやり方です。この方法であれば完璧です。
自動車を保有している場合、ガソリン代以外の費用も経費計上できます。考え方としては、前述の「持ち家の場合」に近いです。
自動車の購入費用は、その減価償却費となる部分を計上できます。車をローンで買っている場合は、金利の部分を「支払利息」として経費にできます。
これらもすべて「走行距離」や「使用日数」などで一定の割合を決めて家事按分します。
住宅ローンの項目でも述べましたが、「カーローンの返済元金は経費にはならない」ので注意です。
また、車検代や駐車場代も按分したうえで経費にできます。
たとえば、出先でタイムズなどの時間貸し駐車場を利用した場合は、仕事での利用なら駐車料金を全額を経費にしても問題ないでしょう。
これらの費用は「車両費」として計上します。
自動車税も同じように按分して経費にすることが可能です。自動車税に関しては、勘定科目は「租税公課」を使います。
按分割合は自由に決めてよい
按分することで経費にできる費用を紹介してきました。
また、按分割合の決め方についてもいくつかのやり方を紹介しましたが、実は按分割合は自分で自由に決めても問題ありません。
大切なのは、税務調査の調査官と話したときに「常識的に考えて納得できる割合かどうか」です。
理由をきちんと説明できて、YESと言われればOK、NOと言われればNGという世界です。もし心配なら割合を保守的に見積もっておくことをおすすめします。
ただし、按分割合は「一度ルールを決めたら基本的には変更しない」ことが重要です。
たとえば、1年目は「使用日数」で按分計算し、2年目は「使用時間」で按分している、経費の金額が大きくなるものをその都度選んでいるというのは問題です。
費用ごとに計算の根拠を決めるのは問題ありませんが、毎年ごと(もしくは毎月ごと)に計算方法がコロコロ変わるのは避けるのが無難です。
これまで紹介した費用以外にも、プライベート利用と事業利用が混じっているものは按分して問題ありません。
按分割合を決めるヒントとしては、
- 時間
- 使用時間
- 数
- 実際に使用した割合、走行距離など
- 日数
- 事業用に使った日数
- 面積
- 事業に使ったスペース
の4つをベースに考えます。
按分の仕訳方法
家事按分した費用を仕訳するときは、下記のように事業主貸を使います。
▶12,000円の電気代のうち4,000円を経費にする場合
勘定科目は「水道光熱費」、摘要欄には「電気代 ◯月分」などと入れておくとよいでしょう。
借方 | 貸方 |
---|---|
水道光熱費 4,000 | 普通預金 12,000 |
事業主貸 8,000 |
—
意味は同じですが別の仕訳方法として、
借方 | 貸方 |
---|---|
水道光熱費 4,000 | 普通預金 4,000 |
事業主貸 8,000 | 普通預金 8,000 |
と記載することもできます。
—
現金で支払った場合は、以下のようになります。
借方 | 貸方 |
---|---|
水道光熱費 4,000 | 現金 12,000 |
事業主貸 8,000 |
—
事業用のクレジットカードで支払った場合は、一旦未払金として計上します。
借方 | 貸方 |
---|---|
水道光熱費 4,000 | 未払金 4,000 |
事業主貸 8,000 | 事業主借 8,000 |
※この場合、事業主貸と事業主借の記帳はあってもなくてもどちらでも構いません。
事業主のクレジットカードで支払いをした場合、翌月カードの精算が行われます。
預金口座から12,000円が引き落とされたタイミングで、未払金を精算し事業主借を計上します。
借方 | 貸方 |
---|---|
未払金 4,000 | 普通預金 12,000 |
事業主貸 8,000 |
—
プライベート用のクレジットカードで支払った場合は、事業主借として計上します。
借方 | 貸方 |
---|---|
水道光熱費 4,000 | 事業主借 12,000 |
事業主貸 8,000 |
この場合は、特に精算せず「事業主借」の金額はそのまま積み上げておいて問題ありません。
勘定科目「事業主貸(じぎょうぬしかし)」とは、「個人事業主に対してお金を貸した」と仮定した項目です。
しかし、この事業主貸は決算書(貸借対照表)の帳尻を合わせるためのものなので、金額が積み上がっていっても問題はありません。
また、「個人事業主からお金を借りた」と仮定した項目は「事業主借(じぎょうぬしかり)」という勘定科目を使います。
こちらも、決算書の帳尻合わせなので、金額が積み上がっていっても問題ありません。事業主借はおもに、プライベートで使う費用を事業用の口座などで決済した場合に発生します。
会計ソフトを使って家事按分するには
上記の方法で自分自身で家事按分をすることもできますが、会計ソフトを使えば自動的に按分計算を行ってくれるので便利です。
確定申告ソフトの「家事按分機能」を使う場合は、事業用・プライベート用の総額を仕訳に記載します。
つまり、地代家賃が6万円で、そのうち50%を経費にしたい場合でも、そのまま合計金額である6万円を入力します。
その後、家事按分機能で「地代家賃は50%を事業経費にする」という設定を行うと、会計ソフトが自動的に按分比率にもとづいて、仕訳の入力金額のうち50%を経費とし、残り50%を事業主貸に変更してくれます。
マネーフォワードクラウド確定申告で按分する
マネーフォワードクラウド確定申告では、「決算・申告」の項目から勘定科目ごとに家事按分を設定します。
たとえば、「通信費」に該当する経費は支払額の60%を必要経費にすると決めた場合、「家事按分設定」から事業経費にしたい割合を入力して保存します。
このように設定しておくことで、仕訳入力をしたときに自動的に経費に組み入れる比率の金額だけが帳簿に記載されます。
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マネーフォワードクラウド確定申告の新料金プラン、青色申告はどのプランを選ぶべき?
freeeで按分する
クラウド会計ソフト「freee」も同様に、「確定申告」メニューの「家事按分」から一括設定できます。
freeeの場合、「勘定科目」だけでなく「品目名」も含めて事業での利用率が決められるので、やよいの青色申告オンラインやマネーフォワードクラウド確定申告よりも柔軟な設定が可能です。
やよいの青色申告オンラインでの按分
やよいの青色申告(白色申告)オンラインを使う場合も、「確定申告」のメニューで一括して家事按分が行えます。
家事按分の割合を入力するだけで、支払金額合計から自動的に経費の金額を算出し、反映してくれるため便利です。
しかし、「水道光熱費」という1つの勘定科目のなかでも「水道代・電気代・ガス代」それぞれの按分割合が異なる場合、この機能は逆に使いにくくなってしまいます。
このような場合は、前述の「事業主貸」を使う方法で、仕訳入力時に按分します。
領収書はどうすればよいか
按分した場合、領収書は同じようにとっておきます。
たとえば、携帯電話の通信料1万円の領収書があったとして、そのうち約30%に相当する3,000円を経費に計上すると決めたとします。
この場合、帳簿には上記で説明したように
借方 | 貸方 |
---|---|
未払金 3,000 | 普通預金 10,000 |
事業主貸 7,000 |
と仕訳を入力します。
領収書はあくまでも支払ったことを「証明」するためのものなので、1万円と記載された通信費の領収書をそのままファイルなどに保管しておきます。
按分は自分自身で自由に決められますが、一定の「根拠」を設定しそのルールに則って経費計上しましょう。
一般的に言われている水道光熱費やガソリン代、家賃のほかにも、自動車税や住宅ローンの金利(利息)などを家事按分で経費にできます。
仕訳の方法には「事業主貸」を使うため、確定申告がはじめての方にとっては計算が難しいかもしれません。
しかし現在は、確定申告ソフトを使うことで自動的に按分の計算をおこなってくれるので安心です。
確定申告ソフトのくわしい比較については「個人事業主の青色申告ソフト比較!マネーフォワードクラウド確定申告かfreeeかやよいの青色申告か」という記事でで解説しています。合わせてご覧ください。
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