会社を設立する時に資本金はいくらにすべき?見落としがちな要点を解説
執筆者:川原裕也 更新:
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資本金はいくらなの?
会社を経営しているとたまに聞かれる質問です。しかし、同じ経営者に聞かれるというよりは、この質問は友人など一般の方に聞かれることが多いです。
会社設立に必要な「資本金」というものは実態のないお金であり、資本金1,000万円の会社だからといって1,000万円の現金を持っているわけではありません。
今回は、
- 資本金とは一体何か?
- 会社設立時に資本金はいくらにするべきか?
についてわかりやすく解説します。
目次
資本金とは会社設立時に集めたお金
ここでは、一般的な「株式会社」を例に出します。
商品の仕入れや備品の支払いなど、株式会社の運営にはお金がかかります。では、それらの支払いに必要なお金はどこから出てくるのかというと、
- 資本金(株主から集めたお金)
- 借入金(銀行などから集めたお金)
- これまでに得た利益
の3つとなります。
しかし、会社設立時には当然「これまでに得た利益」は存在しませんから、会社をスタートする時点では資本金と借入金を使って、ビジネスを始めなければなりません。
ただし、会社の実態が何もない状態で銀行からお金を借りることはできませんから、まずは実態を作るために株主からお金を集める必要があります。この、株主から集めるお金が資本金です。
1.株主から資本金を集めて会社を設立する
2.資本金を元にして銀行からお金を借りる
3.資本金と借入金を元にビジネスをスタートし利益を積み上げる
4.資本金、銀行借入、積み上げた利益の3つを使いビジネスを継続する
「資本金」「借入金」「積み上げた利益」の3つですが、借入金は定期的に返済をしたり新たな借入を行うので、流動的です。また、積み上げた利益も場合によっては赤字となることがあり、流動的です。
一方で、資本金は一度払い込まれた場合は変動しません。資本金を増やすことを「増資」、減らすことを「減資」といいますが、これらにはいずれも手続きが必要なので、資本金は固定されたままであることが多いです。
一般に、資本金が大きいほど多くの株主からお金を集めたという裏付けになるので信用度は増します。しかし、代表者1人が100億円を持っていて一人でポンと出資しても資本金は100億円となりますので、実際は資本金が大きいからといって信用があるわけではないという点に注意です。
資本金があるからといって現金があるわけではない
資本金は会社設立時に集めたお金です。「集めた」というのは過去形であり、資本金が1,000万円だからといって今現在1,000万円の現金を持っているわけではありません。
資本金1,000万円で会社設立をしたとすると、少なくとも会社を作った段階では1,000万円の現金を保有していたことになります。
資本金の増額、減額には手続きが必要なので、会社がどれだけ利益を出そうが、赤字を出そうが、資本金が変動することは基本的にありません。
しかし、実際は赤字の状態が続けば会社の現金は減りますし、なにか設備や自社ビルなどを購入した場合でも現金は減ります。
資本金は手元に残っている現金ではなくて、
- 赤字となってすでに蒸発している
- 設備や自社ビル、商品在庫などに化けている
可能性が高いです。
資本金が多すぎることのデメリット
ここからは、会社を設立するときに資本金をいくらにするべきか?を考えます。
まず、資本金が多いことのメリットは2つあります。
- 一般の人から得られる信用が大きい
- 会社設立後に使えるお金が多い
資本金が多いと単純に、他の人から見て信用が得られやすいです。資本金1円の会社と大きな取引をするのは心配ですが、資本金100億円の会社となら、大きな取引をしても安心なのではないか?と思えますよね。
また、資本金は会社設立後に使えるお金なので、多い方が大きなビジネスを手がけやすいです。
現在は資本金1円でも会社は設立できます。
もし、資本金1円で会社を作った場合、パソコンやプリンタを買うお金が支払えないので、金融機関もしくは代表者から借入をして設備を購入することで、ビジネスをスタートさせる必要があります。
資本金を増やすと制限がかかる
上場しているような大企業、中小企業、そして零細企業、1人で運営しているような個人会社も含めて、すべて「株式会社」という仕組みは同じです。
しかし、資本金の大きさによって会社の規模が分類されます。資本金が大きいほど大企業扱いとなり、制限がかかります。
資本金1,000万円未満
会社設立後2年間は消費税の免税事業者となる。(消費税を支払わなくて良い)
法人住民税の均等割(赤字でも発生する会社の維持費の一つ)が年間7万円。(地域によって若干異なる)
年間800万円以下の所得に対しては法人税の軽減税率が適用される。(税率が下がる)
資本金1,000万円以上
免税事業者になれないので、会社設立後1年目から消費税の納税義務が発生。
法人住民税の均等割が年間18万円。
年間800万円以下の所得に対しては法人税の軽減税率が適用される。(税率が下がる)
資本金1億円以上
年間800万円以下の所得に対する軽減税率は適用されない。
法人住民税の均等割が年間29万円。
年間800万円を越える交際費を損金扱いにできない。(経費にできない)
従業員数や床面積によって適用される外形標準課税が発生
欠損金の繰り戻し還付が使えない
特定同族会社の配当に対して課税される
こういった制限が、資本金が多すぎることのデメリットです。
であれば、「資本金なんて増やす必要ないじゃん、少ない方がいいじゃん」となりますよね。
資本金が大きいことの2大メリットである、
- 一般の人や取引先から得られる大きな信用
- 会社設立後に使える多額のお金
が必要ない場合は、あえて資本金を増やす必要性はなさそうです。
実は、この考えは正しいです。
しかし、会社の規模が大きくなり取引先との関係強化などによって自社株を持ってもらうことがあれば、(新たな資本が入るので)増資をすることもあります。
また、資本金を増やすもう一つの理由としては、金融機関からの評価に影響するため財務を強化する必要があることがあげられます。
資本金が少なすぎることのデメリット
逆に、資本金が少なすぎることで発生するデメリットは「銀行からの借入が行いにくくなる」ということです。
財務健全性を示す指標に「自己資本比率」というものがあります。
自己資本比率は、自己資本(純資産) ÷ 総資産で計算できます。
自己資本とは「資本金」と「これまで積み上がった利益」を足したもので、総資産はこれらに「借入金」を足したものです。
例えば、資本金が500万円、これまで積み上がった利益が200万円、借入金が600万円の場合
・総資産は1,300万円
・自己資本が700万円
となるので、700万円 ÷ 1,300万円 = 53.8%が自己資本比率
となります。
一般的に自己資本比率は50%を上回っていると財務健全性が高いと言われますが、借入金に頼りがちな不動産事業や中小企業などは50%を下回るケースも多いです。
一方、借入金にたよらないIT系などは自己資本比率90%というケースもあります。
自己資本比率の高低で会社の良し悪しを判断せず、同業他社と比較することが重要です。
自己資本比率がなぜ財務健全性を示すのかというと、会社の規模に対して借入金を増やせば増やすほど自己資本比率が下がるからです。
資本金が少ないとすぐに債務超過に陥ってしまう
では、資本金1円の会社が銀行から借入をするときのデメリットを考えてみます。
創業時は銀行も理解を示してくれるので、たとえ資本金が1円でも「創業融資」などをしてくれます。
しかし、創業時は「積み上がった利益」がないわけですから、100万円の借金をすると総資産は100万1円となり、自己資本比率は「0.000000999%」と財務健全性がないに等しいレベルになってしまいます。(計算式は1 ÷ 1,000,001)
創業融資をしてもらったとしても、1期目の決算が終わると2期目から「積み上がった利益」が自己資本にカウントされることになります。
ここからが重要です。
1期目の決算が無事に黒字となり、積み上がった利益が100万円だった場合、総資産は「資本金1円、借金100万円、積み上がった利益100万円」になります。
この時の自己資本は「資本金1円、積み上がった利益100万円」となるため、自己資本比率は50%となります。
一気に財務健全性が良い会社になりました。来期以降も黒字を続ければ借金に頼らず、資本金1円のまま経営を続けていくことができます。
しかし、1期目の決算が赤字となり、積み上がった利益が-100万円(つまり100万円の赤字)だった場合、自己資本は0%を下回り、マイナスの状態になります。
この状態のことを債務超過と言い、倒産寸前の状態として認識されています。
債務超過(さいむちょうか)とは、債務者の負債の総額が資産の総額を超える状態。 つまり、資産をすべて売却しても、負債を返済しきれない状態である。 法人及び相続財産の破産手続開始の原因である。
債務超過は、「資産をすべて売却しても、負債を返済しきれない状態」であり、またこのような状態の会社に対して新しく融資をしようと考える金融機関はいませんから、あとは借金の支払利息が会社を蝕み、倒産まっしぐらの状態となりかねません。
この、債務超過を脱出する方法が1つだけあります。それは、資本金を増やすことです。
債務超過に陥った企業が増資することによって債務超過の状態から回復するケースは、上場企業でも見られます。そもそも、資本金が多いほど債務超過になりにくいので、一定の財務健全性を保つためにもある程度の資本金は用意した方がいいのです。
前述のとおり、資本金1円でも会社は作れますが、赤字になるとすぐに債務超過になってしまうと言う点がデメリットです。もっとも、1期目から黒字を出せばなんら問題はないのですが。
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資本金を増やす2つの方法
資本金は一般的に新株を発行することで「増資」を行います。
既存の株主から、よりお金を集めることを「株主割当増資」といい、まったく別の第三者からお金を集めることを「第三者割当増資」といいます。
通常は現金でお金を集めますが、「現物出資」と言って物を渡すことで出資してもらう方法もあります。
いずれにしても、増資をするということは新たに(借金ではない)お金を集めるということです。
しかし、新しくお金を集めることなく増資をする方法があります。
それが、「利益剰余金の資本組み入れによる増資」という方法です。
これはわかりやすくいうと、「積み上がった利益(利益剰余金)」を資本金に振り替えてしまおうという発想です。実際にお金の増減や移動は無く、この方法を使えば資本金の数字だけを増やすことができます。
資本金1円で会社設立し、ある程度儲かってきた段階で、取引先からより多くの信用を求められた場合などに、これまで積み上がってきた利益を資本金に振り替えて、資本金を500万円などに増資し、見た目をよくできます。
実際、私も資本金100万円で会社を設立しましたが、その後「利益剰余金の資本組み入れによる増資」を使って資本金を900万円に増資しました。
会社に払い込んだお金は最初の100万円だけであり、以降は新しくお金は入れていません。
書面上、「利益剰余金の資本組み入れによる増資」の書類を作成して法務局に登記するだけで、見た目上の資本金を簡単に増やすことができました。(増資するためにに多少の手数料はかかりますが)
私も最初は資本金の正体が何なのかわかっていませんでした。
それに、資本金を増やすと何がいいのか、増やしすぎると何がいけないのかということもわからなかったのですが、経営をしていくうちに自然とこうしたことも理解できるようになりました。
もしわからないことがあれば、私の知識で答えられることがあるかもしれませんので、気軽に質問してくださいね。
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