1億円の借金をしてわかったこと、事業資金を銀行から借りる前に
執筆者:川原裕也 更新:
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事業をはじめて10年が経ちました。
その間、ビジネスにレバレッジをかける目的で、銀行から計1億円の借入を起こしました。
幸いにして私の会社は少資本で運営できるビジネスを行っていますので、資金繰りで困ったことはほとんどありません。
つまり、銀行からの借入は特に必要なかったのですが、手元資金を厚くすることで、より事業のアクセルを踏むことができるのではないか?と考えました。
また、将来的に大きな資本が必要なビジネスをすることになった場合や、資金繰りで苦しくなったときに備えて、銀行さんとの関係を築いておこうという考えもありました。
すべて無担保で借りたため、借入額を1億円まで拡大するのにも、それなりに時間はかかりました。
小規模企業であることからも、財務担当者や経理担当者は存在せず、すべて私が窓口となって、完全未経験の状態から「銀行から事業資金を借りる」ということを経験しました。
借入金は現在も返済中ですが、実際に1億円の借金をしてみて、借りる前には気づかなかったデメリットが見えてきましたので、共有します。
現在、事業資金の借入を検討している人には何かしらのヒントをご提供できると思っていますので、最後までお付き合いください。
借金は癖になる
実際に借金をしてみて、最大の気づきといってもいいのがこれです。
「借金は癖になる。」
私がこのように話しても、なかなか伝わらないと思います。(おそらく、お金を借りたことのある人は皆「YES」と言ってくれると思います)
「今回だけ借りて、すぐに返して、その後は絶対に借りないでおこう。」とか「どうしても欲しい物があるから今回だけ。」とか「低金利だから少し借りておこう」など、借入を起こす動機はさまざまです。
特に、この記事を書いている現在は「新型コロナウイルス」の問題で「実質無利息での貸付」がはじまっていることもあり、新たに銀行や日本政策金融公庫などから資金調達をした事業者も多いと思います。
しかし、1度でも借金に手をつけてしまうと、次回から「また借りるか。」という考えが浮かび、再び借入に手を付けてしまう可能性が高いのです。
本当に不思議なのですが「お金を借りる(資金調達する)」というオプション(選択肢)を一度でも行使してしまうと、その後は「その選択ありき」の思考になってしまうのです。
例えば、一度でも消費者金融(サラ金)でお金を借りたことがある人は、再びリピーターとしてお金を借りることが多いです。
また、株式の信用取引を1度でも行うと、その後は継続してレバレッジをかけた信用取引をする人が多いです。
最初は「ギャンブルは怖い」「たばこは怖い」という感情を抱いていても、恐る恐るそれに手を付けてみると、次回から「怖い」という心理障壁はなくなり、やがてそのスリルが癖になり、やめられなくなる。というのに似ているかもしれません。
借金には依存性がある。
これは多くの人が軽視している事実だと思います。
手続きが煩雑になる
事業資金を借りる2つめのデメリットは「手続きの煩雑さ」です。
借りる側からすると、お金を一度借りた後は、その資金を使って事業拡大にまい進したいと思うはずです。
しかし一方で「貸す側(銀行さん)」からすると、借りたお金がきちんと返ってくるか、継続的なモニタリング(監視)が必要となります。
また、貸付によって接点を持った事業者は貴重な「顧客リスト」になりますから、お金を貸したあとも接点を持ちながら、自社が販売する商品などの提案を行うのは当然です。
何が言いたいのかというと、銀行からお金を借りると「最近どうですか?といったミーティングと合わせて、クレジットカードや投資信託を購入しませんか。」という営業が来るようになります。
また、新規の融資の提案だったり、保険の勧誘や不動産の購入などの話も来たりします。
銀行マンは原則、2年ごとに転勤がありますので、転勤で担当者が代わるたびにあいさつに来ます。
また、毎期決算書ができたら、銀行に決算書を提出しなくてはなりません。これも面倒な作業です。
一定の規模感がある会社で「社長の仕事は人と会うこと。」という状況であれば、これらの作業は大きな弊害にならないと思いますし、借入ありきのビジネスを手掛けている事業者なら、銀行とのパイプを堅くしておくことも大切な仕事です。
しかし私の会社のように、小規模な事業を展開している人にとっては、こうした作業は思う以上に負担で、時間を取られてしまう仕事です。
お金を借りて事業にまい進するぞ!と意気込んでいたら、いろいろと電話に応じたり、人と面談したり、書類を作成したりといった、余分な手間が生じてしまった。これも借りる前は気づけなかったことです。
もっともこれらの作業は、貸す側からすれば当然のことです。たとえ面倒であったとしても、お金を借りている以上は、銀行さんを少しでも安心させられるよう対応したいものです。
なお、政府系の金融機関である「日本政策金融公庫」からの借入であれば、これらの手続きは一切不要です。
借入額が一定額を超えると、決算書の提出などが求められますが、一定額を超えていなければ、お金を借りた後は何も言ってきません。(もちろん、きちんと返済していればの話です)
完済までの期間は自分が思う以上に長い
金融機関の人と話をしていると、お金を借りる人の多くが「返済期間は少しでも伸ばしたい」と言うそうです。
返済期間を長くするほど、毎月の返済額は減りますので、キャッシュフロー(資金繰り)は安定します。一方で、支払利息の総額は増加します。
基本的に、担保ありきの設備資金であれば10年超の借入が可能で、通常の運転資金の場合は長くても7年程度までしか返済期間をとれません。
私の場合は無担保で資金を借りたこともあり、最も長いもので返済期間は10年です。借入のほとんどは返済期間10年未満となっています。
しかし、完済までの期間は自分が思う以上に長いものです。
「借りる前は、5年返済か。もっと長くできないかな。」などと思っていましたが、たとえ5年返済でも実際に返してみると非常に長く「完済までの道のりは長かったな。」という感想を抱きます。
人は7年でガラリと変わると言われています。
7年前を振り返ってみてください。
7年前の自分と今の自分はまったく違う姿、考え方をしているでしょうし、おそらく7年後の自分も想像できないほど変わっているでしょう。
そして、7年の間に変わるのは自分だけでなく、周りの環境はもちろん、自分の事業環境も大きく変わる可能性が高いのです。それも自分がまったく想像していなかった姿になる可能性が高いのです。
これも実際にお金を借りて、そして完済してみなければ気づけないことだと思います。
人生初の借金が住宅ローンである。という人は多いです。
しかし、はじめて契約するローンが35年返済(実質的には一生をかけて返済する)であるという事実の重要性を、借りる前に正しく認識できている人はほとんどいないのではないでしょうか。
3年返済、5年返済、10年返済。いずれも借りる前は短いと感じても、実際は自分が思う以上にその道のりは長く、険しいものなのです。
一度拡大した信用の扉はいつか閉じなければならない
これも金融機関の人と話していて教えてもらったことなのですが、お金を借りる人の多くが「借りれるなら目一杯借りたい」と言うそうです。
例えば、「借入可能な上限額は1,000万円ですが、いくら借りますか?」と聞かれると、必要な資金が500万円だったとしても、どうせなら借りれるだけ借りておこうと1,000万円の借入を希望する人が多いのです。
しかし、借金というのはいつか必ず返さなければなりません。借入金は寄付金や出資金とは違います。
何を当たり前のことを言っているんだ。と思われるかもしれませんが、これも当たり前だと思っていても、借りる前には正しく認識できないことなのです。
なぜかわかりませんが、借金だとわかっていても、手元にガツンと大きなお金が入金されると、いつのまにかそれが返さなくてもいい自分のお金だと錯覚してしまうんですよね。
正確には、返さなければならないのは理解しているが、その事実を正しく認識できない状態に陥る。という表現が正しいです。(決して、本気で返さなくてもいいとは思っていません)
借入を起こすということは、言い換えると「信用の扉を開け、信用を拡大する」ということです。
しかし、一度拡大した信用の扉は、必ずいつか閉じなければなりません。
信用を閉じるべきときに、拡大した信用の力を上手く使って事業を拡大できていればいいのですが、事業が拡大すると、それが上手くいかなくなるまで扉を開けっ放しにし、拡大し続けてしまう事業者が多いのです。
そして、信用は拡大したぶんだけ、閉じるのはしんどい作業でもあります。だからこそ、多くの事業者が信用を拡大し続けることを選んでしまうのだと思います。(いわゆる借金癖に陥る)
なぜなら、人は「退化する」ことを最も嫌う生き物だからです。
例えるなら、一度ドーピングをして筋肉を増強し、いい結果を出したスポーツ選手が、ドーピングをやめられないのと同じです。
老化に耐えられない人が、アンチエイジングや整形に多額のお金をつぎ込み続けるというのも同じです。
信用が拡大している間は何も考える必要はありません。大切なのは、拡大した分だけ結果がついてきているかどうかにあります。
借りたお金を適切に使い、良い結果に結びつけていくことができれば、信用は拡大し続け、レバレッジは有効に働きます。
しかし、借りたお金を上手く使うことができなければ、返済という名の重荷が経営者を襲います。
一度膨らませた債務(レバレッジ)は、どこかのタイミングで必ず縮小(返済・デレバレッジ)しなければならない。
これは至極あたりまえのことなのですが、多くの経営者や投資家はこの事実をすぐに忘れてしまうのです。
借金をコントロールするのは難しい
私が実際に1億円の借金をしてみてわかったことは、
- 借金は癖になる
- 手続きが煩雑になる
- 完済までの期間は自分が思う以上に長い
- 一度拡大した信用の扉はいつか閉じなければならない
です。いずれも教科書には載っていない、借りてみてはじめてわかる事実でした。
私の感想としては、お金は財務規律なしに借りるべきではないということ。
また、お金を管理できる人でなければ借金をコントロールするのは難しいということです。
いずれも当たり前の話なのですが、実際に借りてみなければ、その重要な事実になかなか気づけないものです。
私自身は、資金がうまく回っている「事業の拡大局面」でこれらのことに気づくことができたのは幸いでした。
もし事業が縮小しはじめた段階で、これらの重要な事実に気づかされていたら、もともと借りなくても良かったのに、レバレッジをかける目的で借金をして、事業に失敗してしまうというひどい結果になっていたかもしれません。
ある程度規模の大きな会社であれば、財務担当者や経理担当者など専門的な知識のあるメンバーと一緒に資金調達の計画を立てることができると思います。
しかし私のように、小さな会社で(専門的な知識を持たない)社長がすべての窓口に立っているような場合は、小さなミスが大きな失敗を招くことも少なくありません。
借りるのは簡単でも、返すのはその10倍難しい。
この記事で述べたことが、銀行借入を検討しているすべての方に、何らかの形でお役に立てたなら幸いです。
事業資金の借入を行って、もし事業がうまく回らなくなってきたら、再びこの記事を読み返してみてください。
もしかすると解決のヒントになるようなことが見つかるかもしれません。
また、過去に事業資金を借りて失敗した経験、もしくは事業の危険を感じた経験のある方がいましたら、コメント欄にてお知らせください。
きっと、現在借入を検討している多くの事業者の役に立つはずです。
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