成功する事業家はリスクを取らない、攻めの経営が失敗する理由
執筆者:川原裕也 更新:
※記事内に広告を含む場合があります
私は、経営者であり、投資家でもあります。常々、経営で学んだことは投資に活かせるし、投資で学んだことは経営に活かせると考えています。
最近ふと気づいたことがあります。それは「真に成功している事業家は、実はリスクを取っていない」ということです(正確には、最小限のリスクしかとっていない)。
投資の世界では「元本の安全性」が極めて重要なものであると認識されています。
なぜなら、投資では「現金こそが次の利益を生み出すための種になる」からです。投資で元本を失うということは、仕事道具を失うのと同じです。
一方で、経営はどうか。
本来、事業家は自分で事業資金を持たず、投資家や銀行から資金提供を受けて事業を営むものです。失敗して現金を失っても、その事業者を応援してくれる人がいる限り、(倒産しなければ)何度でも再チャレンジできます。
また、ビジネスの世界では「大きなリスクを取る者が称賛される」という風潮があります。
大きなリスクを取ってギリギリの勝負をしかけ、それに打ち勝った経営者が「成功者」として名をあげます。
たとえば、ソフトバンクの孫正義社長はまさにそういった経営者のように見えます。「自分も孫社長のように大きな勝負をしたい」と考える経営者は少なくないはずです。
このように対比してみると、
- 投資家の視点:リスク回避的
- 経営者の視点:リスク選好的
であることがわかります。
リスクを取らずに確実な勝負をする
投資家にとっても、経営者にとっても大切なことは「リスクを取らずに確実な勝負をする」ことです。
もちろん、リスクのない勝負、100%確実な賭けは存在しませんので、厳密には「リスクを最小限にし、確実性の高い勝負をする」という方が正しいでしょう。
しかし、現実にはリスク選好的な経営者の多くが「ギャンブル的に大きな勝負を仕掛けて、取り返しのつかない過ちを犯してしまう」のです。
なぜ倒産 23社の破綻に学ぶ失敗の法則という書籍にも、中小企業経営者の多くが、事業環境の悪化から抜け出すためにギャンブル的な勝負をしてしまい、それが仇となって倒産するといったエピソードがたくさんありました。
また、2015年に経営破綻した航空会社「スカイマーク」も、身の丈経営を無視した過剰な投資が原因で倒産に追い込まれています。
投資の世界では、このような過剰なリスクはすぐに失敗に結びつきます。しかしビジネスの世界では、無理にリスクを取っても、結果的にうまくいってしまうことがあるようです。
経営判断としては間違っていても、たまたまうまくいってしまう。
大きなリスクをとった勝負がたまたまうまくいっただけなのに、その成功が称賛される。そして、同じ過ちを2度、3度と続けていく。
しかし、どれだけ運が良くても同じ過ちを繰り返していれば、いつか必ず失敗します。
大きなリスクを取って成功した事業家を真似るのではなく、投資家の視点で「まず十分な安全の確保を優先させる。ギリギリのリスクを取るような勝負をしてはいけない」ということを肝に銘じるべきであると、私は考えています。
知力を磨くとリスクの見え方が変わる
「安全が第一。ギリギリの勝負をしてはいけない。」
このように考えたと同時に、私はもう一つの重要な視点に気づきました。
それは、知力を磨くことで、目の前のリスクの見え方が変わるということです。
たとえば、ソフトバンクの孫社長は、一般的には理解しがたいほどの大きなリスクをとって(大きな勝負をして)、これまで数々の成功を収めています。
これは、ただ運が良かっただけなのかもしれませんが、もう一つの視点として「孫社長にとっては、ギリギリの勝負をしているわけではない可能性がある」というものがあります。
私たち外部の人間は、
- 方法:大きなリスクを取った勝負をしている
- 結果:数々の成功を収めている
という2つの情報しか得られません。
この2つの情報から「大きなリスクを取ることが成功に繋がる」という誤った認識を抱いてしまうのです。
しかし、表には出ませんが、孫社長のなかには
- 緻密に計算された事業計画
- 数々のバックアッププラン(代替策)
- 失敗した場合の処理方法(撤退方法や最大損失の見積もり)
といった、私たち外部からはわからない、内部の人間だけが知っている施策がいくつも用意されているのかもしれません。
そして、こうした計画や施策を作り、実行するためには、知力と経験が不可欠です。
つまり、私たちからすると「成功者が大きなリスクを取って勝負をしているように見えているだけ」であり、本人にとっては「ギリギリの勝負はしておらず、実はリスクを取っていない」のです。
ソフトバンクが旧ボーダフォンを買収し、携帯事業に参入した当時、多くの報道陣・証券アナリストが
- 無謀な賭けである
- 巨額の借金を背負いすぎだ
と指摘したのは知られるところです。
しかし、その裏では「iPhoneの独占販売」という武器を仕込んでおり、買収の段階で、このビジネスの成功率を高めていたことがのちのち判明しています。
さらに、一説によると、ボーダフォンの買収が失敗した場合に備えて、あらかじめ引き取り手となる売却先を選定し、話を進めていたのだとか。
また、買収したボーダフォンが破綻するという最悪の事態が起こっても、買収資金として調達した1兆3,000億円は「ノンリコースローン」となっており、ソフトバンク本体には返済義務が及ばない仕組みになっていました。
当時、多くの人が危険だと指摘した「2兆円規模の大型買収」は、もし失敗しても、ソフトバンク本体への損失が限定的で、決してリスクの高い取引ではなかったのです。
周りから見ると「一か八かの賭け」をしているように見えても、当事者であるソフトバンクは、2重・3重のプランを練り上げ、リスクを最小限にしていたのです。
成功する事業家はリスクを取らない
これはあくまでも私自身の考えです。
経営者は「十分な安全の確保が第一であり、致命傷となるようなギリギリの勝負はしない」こと。
自分が知力を磨き数多くの経験をしていくと、自分のやっていることは何も変わっていないのに、「大きなリスクを取って成功している」と周りが勘違いし、称賛してくれること。
これが「リスクの本質」ではないかと私は思うのです。
ヒントになった本。
次の記事は、「仕事は8割捨てていい インバスケット式「選択と集中」の技術」です。
あわせて読みたい:
仕事は8割捨てていい インバスケット式「選択と集中」の技術
0件のコメント