「持たない経営」が今注目される理由、バランスシートを見なおしてみよう
執筆者:川原裕也 更新:
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「持たない経営」で利益率が上がります。
ニュースやビジネス書などで「持たない経営」という言葉を見たことはないでしょうか。
持たない経営とは、資産をできる限り持たずアウトソーシングをフル活用して経営をする手法です。
以前から持たない経営を実践している会社はありましたが、近年のIT技術の発展によってその流れは加速しています。
自社が「資産をたくさん持っている経営」をしているか、それとも「持たない経営」を実現できているかは、バランスシート(貸借対照表)を見ればわかります。
下記の事例と自社のバランスシートを見比べながら、持たない経営によって利益率の向上を狙ってみてはいかがでしょうか?
持たない経営のメリット
資産を持たない会社の究極形は、「ノウハウと現金以外はまったく保有していない」会社です。
つまり、ビジネスの中核となるノウハウや知識・知恵・データといった知的財産のような実態のない資産のみを持っており、設備や技術のようなものはすべて外部に委託します。
持たない経営の1つが「フランチャイズ」方式によるビジネス展開です。
セブンイレブンは、実店舗の提供、店舗経営、店舗で働くスタッフの確保(面接)などはすべてフランチャイズ加盟店オーナーにアウトソーシングするという形を取っています。
セブンイレブンが自社で行っているのは、マーケティング、商品開発、流通などです。もちろん、商品の製造もアウトソーシングしているはずです。
また、フジテレビやTBSのような放送局も、番組の制作は大抵、制作会社に委託しています。
企業の大小に限らず、すべての部門を自社で保有しているというケースは少ないです。持たない経営はそこからさらに一歩踏み込んで、ありとあらゆる部門を外部委託していく経営手法です。
セブンイレブンはフランチャイズを活用し、開業から2年で100店舗まで増やしました。外部の力を活用することで、加速度的にビジネスを展開できるのが、持たない経営の大きなメリットです。
自社で店舗候補の選定やスタッフの面接などをしていては、2年で100店舗というハードルはかなり高いものになるでしょう。
年商1億円以下の中小企業なら、社長以外は全て外部スタッフとの連携で対応し、「事務所は自宅もしくはレンタルオフィス」といった、固定費を極限まで削った形態がベストではないでしょうか。
私の会社もこのスタイルで経営しています。インターネットを駆使して自社ではほとんど機能を持っていません。
アウトソーシングを活用すると、雇用する従業員数も減らせるので必然的にオフィスの賃料も下げることができます。
また、毎月かかる固定費が変動費化するので、業績が悪化しても、それに合わせてビジネスの規模を縮小することができます。
資産を持たずに会社の規模を小さくしておくことは、機動性を武器にできるので、あらゆる経営危機にも対応しやすいメリットがあります。
逆に、会社の規模が小さいからといってビジネスが大きくできないわけではなく、アウトソーシングをうまく活用した「持たない経営」を実現すれば、より速く、より大きなビジネスを展開できます。
ダイエーとイトーヨーカドーの違い
かつて小売業界の王様だったダイエーは、バブル崩壊とともに大きな打撃をうけて衰退し、ついにはイオングループに吸収され、そのブランドは2018年に消滅することが決まっています。
ダイエーはバブル期に土地を次々と購入して店を建て、含み益を狙うビジネスモデルで成長してきました。しかし、すべては銀行からの借入金によって事業を拡大させてきたため、バブル崩壊とともに3兆円にものぼる空前の負債を抱えるハメになってしまいました。
土地の価格が右肩上がりだった頃、ダイエーは自社で土地建物を取得して出店し、その土地建物を担保にして銀行からお金を借り、さらに出店をするという手法をとっていました。
その方法と異なるスタイルで経営していたのが、イトーヨーカドーです。
イトーヨーカドーは店舗を自社で保有せず、賃貸を中心に店舗展開を図っていきました。
その結果、高い利益率を確保することに成功し、それがバブル崩壊のダメージを軽減できたともいえます。
ダイエーが日本一となった1972年以降、ダイエーはセブンイレブンの利益率を一度も上回っていません。
工場を持たないファブレス企業
キーエンスやアップルと言った高い利益率を誇る会社は、工場や生産設備を自社で保有しないことからファブレスと呼ばれています。
製品やデザインの設計や開発、マーケティングといった知的財産・販促データの活用のみを自社で行い、実際の製品の製造はアウトソーシングしています。
製造を外部委託するので、当然ながら「工場・生産設備・工場を建てる土地・工場で働く従業員」を自社で保有する必要はありません。
工場や土地、設備はいずれも購入や維持にお金がかかるものです。また、工場で働く従業員は生産能力に比例して人数が増えます。一度雇った従業員は簡単に解雇できませんから、製造部門を持っていると、事業拡大に伴って固定費が膨らみます。
しかし、キーエンスやアップルのようなファブレス企業は、自社が本当に価値を生み出せる部分に特化することで、高い競争力を身に付け、それが高い利益率に繋がっています。
他社に真似のできない自社の優位性を徹底的に磨く「コアコンピタンス経営」で成功を収めている会社です。
コアコンピタンス経営についてはこちらの記事で明らかにしています。
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ムダなものを完全に削ぎ落としたコアコンピタンス経営の真髄
究極に持たない経営を実践している投資家という存在
持たない経営の中には、コストダウンのためのアウトソーシング、外部の専門家の知識を活用するためのアウトソーシングなど、様々な方法があります。
持たない経営を究極に突き詰めると、前述の「ノウハウと現金以外はまったく保有していない」バーチャル企業のような存在になります。
バーチャルとは言っても、しっかりと利益を出しており、そしてその利益率も圧倒的に高いとなれば、バカにできませんよね。
私は、持たない経営、バーチャル企業の究極系の一つが「投資家」または「不動産投資家」であると考えています。
投資家は、将来の経済を先読みして投資する企業を選定します。
経済の先読みや投資先の選定能力といった知識、そして投資資金は必要ですが、それ以外の技術的なノウハウや設備は全く必要ありません。なぜなら、そういったものはすべて投資先の企業が保有しているからです。
例えば「これから先、フィンテックの時代がやってくる」と思えば、その分野の専門知識や設備・人材を持たなくても、フィンテック分野に強みのある企業に投資をすれば、間接的にその事業を営むことができます。
なぜなら、株式とはそもそも「企業の一部を保有する権利」だからです。株を持っている人が企業のオーナーになれるというのが、株式会社の仕組みです。
投資家は、「持たない経営者」であり、身動きが軽く、経営環境が悪いと感じたら即座に保有株を売却し、その事業から撤退できます。
不動産投資の場合も同じで、不動産を選定するための知識と、誰にアウトソーシングすべきかというノウハウさえ持っていれば、物件の売買手続きやメンテナンス、客付け管理は基本的に外部の管理会社におまかせというスタイルが多いです。
彼らはいずれも「ノウハウと現金以外はまったく保有していない」のに利益をあげています。
事業を営む経営者も、投資家の視点からは学ぶことはたくさんあると思いますし、そうした視点を実践した会社が昨今では良い成績を収めているという現実があります。
自社のバランスシートに何が載っているか、ムダなものがないか改めて見直してみる必要がありそうです。
読んだ本。
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